『物質の落下について』

時代が僕を呼んでいるとその中学生は思って、屋上へと駆け出した。多くの人々が自分の応援のために駆けつけてくれている姿と歓声を、頭の中に思い描きながら。屋上へのドアを開けると、空は真っ青ではなくて、きれいにくすんでいて、でも雨は降っていなかった。世界は白黒になって、ひとつだけ、そこで赤く光っているモノが見えた。中学生は、その赤く光っているモノに向かって駆け出して、空を舞った。彼に重力は関係なかったが、それでも、赤く光っているモノは彼を強くひきつけて、ストンと、彼は落ちた。