「絶対の愛」

「うつせみ」を観て以来、気にかけているキム・ギドク監督作品「絶対の愛」。下高井戸シネマで<キム・ギドク監督特集“サマー・ギドク・マンダラ 〜真夏の夜に激辛のキム(チ)・ギドクを召し上がれ!〜”>なんていう素敵な企画があり、その第一作目の「絶対の愛」をチャリンコに跨り、いそいそと観に出かけたのであった。これが、もう、最高の作品であった。ひさしぶりにカラダが震えた。<不安の愛>が<絶対の愛>へと遷り行く過程。主人公たちがある不可思議な愛の実験をやっている特殊な人間たち、に見えるところから、どうしようもない人たち、にみえるという世界へと移行し、その後、主人公たちのどうしようもなさが切迫感を帯び、特殊なかたちでのどうしようもなさが、普遍的にみえてくる。というような、モードの移行、描かれる世界の位相変化はとても痺れた。
インターネットでの評価を求めて探していたところ、映画瓦版(http://www.eiga-kawaraban.com/06/06122001.html)でのこの映画の批評内でロシュフコーの箴言が引用されていたのですが、それをさらに引用させていただきたい。

 『変わらぬ愛とは一種の絶え間ない心変わりである。つまりわれわれの心が、愛する人の持っているすべての美点に、ある時はここが好き、ある時はあそこが好きというふうに、次々に惚れこんでゆくのである。だからこの変わらぬ心は、同じ一人の相手に局限され、その人の中だけに閉じこめられた心変わりにほかならないのである。』(「ラ・ロシュフコー箴言集」175 二宮フサ訳/岩波文庫