下北で

ひさしぶりに気に入っている喫茶店に行く。やはし落ち着く。

如何に生くべきか、ということは文学者の問題じゃなくて、人間全体の問題なのである。人間の生き方が当然そうでなければならないから、文学者も亦そうであるだけの話である。(中略)罪の自覚、そして孤独の発見は文学のふるさとだけれども、それは又人間全体の生き方の母胎でもあって、およそ、文学固有の生き方、態度、思想、そういう特別なものは有り得ない。文学は人間のものであるだけだ。/私は新しく文学をやる若い人々は、文学者であるよりも人間であることの発見、最もつつましやかな人間の自覚を知ることが一番だと思う。/人間の発見と、書きたい意慾があればおのずから小説は成り立つもの、小説の書き方よりも、人間の見つけ方、見方の方が小説をも決定してくれるものであるから、そしてそういう人間の発見の上に文学の独創性もあるのだから、文学者はいつも人間であることが先決条件の筈である。「新人へ」『坂口安吾全集15』ちくま文庫より