他人の言葉

「僕のコーデリァ!
“ぼくの”、この言葉は何を意味するのでしょうか?それは、ぼくに属するものでなく、ぼくがそれに属するものです。ぼくがそれに属しているという意味で、ぼくのものであるぼくの全存在を含むものです。
“ぼくの神”とは、ぼくに属する神では決してなく、それに属する神なのです。ぼくの祖国、ぼくの故郷、ぼくの憧憬、ぼくの希望という場合も、同じことです。若し不滅ということがかって存在しなかったとしましたら、《看取に九時半過ぎたから、駄目だからなと注意された》ぼくがあなたのものである、という……《絶対的に叱られる!》

永山則夫無知の涙
(しかし、引用が複雑な箇所で誰の発言だか自分には不明である)

十二月四日
やりきれないんだ――君、もうだめだ、ぼくは。これ以上はだめだ。今日、ロッテの横にいた――すわっていた、ロッテはピアノを弾いた、いろいろのメロディー、それからありとあらゆる気持を、ありとあらゆるだよ――全部だ――どう思う、君は。小さな妹はぼくの膝の上で人形に服を着せている。ぼくは涙が出てきた。うつむくとロッテの結婚指輪が眼にはいった――ぼくは泣いた――すると突然、おなじみの甘いメロディーに移った、突然なんだ。ぼくは慰めの感情に包まれた。すると同時に昔のこと、ぼくがこの歌をきいたころのこと、不愉快な陰欝な中間期のこと、遂げられなかった数々の希望のことなどが思い出され、それから――ぼくは部屋のなかを往ったり来たりした。何かこみ上げてきて、息が詰りそうになる。――「頼むから」はげしい感情の爆発とともにぼくはロッテのそばにかけ寄った。「頼むからやめてください」ロッテはやめて、ぼくの顔をじっとみつめていた。――「ウェルテル」ぼくの魂を突き刺すような微笑を浮かべているんだ、「ウェルテル、あなた、とてもお加減がお悪いのね。あんなに大好きな御馳走がおいやだなんて。お帰りになったら。お願いです、気を落ち着けてくださいね」――ぼくはさっと身をそむけて帰ってきた。そして――神よ、あなたは私の悲惨をごらんになっておられる。だからこの始末をつけてくださるでしょう。
ゲーテ『若きウェルテルの悩み』 <<