虚偽の涙

「好きとか嫌いとか、感動したとかしないとか、そんなものはウソッパチなんです。問題はそのウソッパチにいかに立ち向かうかなんです」
酔っ払いは線路のうえにあぐらをかいて、そう言った。

東京の空がみえた。置き忘れてきた私の影が、東京の雑踏に揉まれ、踏みしだかれ、粉砕されて喘いでいた。限りないその傷に、無言の影がふくれ顔をした。私は其処へ戻ろうと思った。無言の影に言葉を与え、無数の傷に血を与えようと思った。虚偽の涙を流す暇はもう私には与えられない。全てが切実に逼迫していた。私は生き生きと悲しもう。私は塋墳へ帰らなければならない。と。

坂口安吾「ふるさとに寄する讃歌」

鍵括弧つきの感情が平然と闊歩する。

久しぶりにパスタ屋でパスタを食べた木曜日。コーヒーとキョコレートの最高な相性に嫉妬する。